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天津中医学院寄生虫学教研室(天津)
中国の医学教育は西洋医学と漢方を主体とした中国の伝統医学との二本柱からなり多くの大都市にはその両者が設置されている。中国における二つの異なった医学教育・研究体制の中で寄生虫学研究がどのような状況にあるのかを知るべく天津市内の二つの施設を訪問した。天津市は北京、上海とならぶ中央政府直轄の市であり、北京の東方約120?に位置する工業・港湾都市で人口は650万人である。
1958年に設立された天津中医学院は3学部(鍼灸、中葉、中医)からなり、5年制の学部学生1400人、大学院100人、夜間学生500人が在籍する中国でもトップクラスの中医学院とされている。幅広く外国とも交流しており、日本を含む約30か国から400人の留学生を受け入れている。中医学院においても基礎教育科目として寄生虫学の講義が行われており、主任の劉陽明副教授を訪ねて話を伺った。教育は年間26時間の講義、実習ということであり、中医学院として寄生虫学の教育に重点を置かない現状は致し方ない。劉副教授は本来西洋医学の研究者で、ライム病の臨床と疫学、トキソプラスマの生理・生化学が専門であるが中医と西洋医学との接点から寄生虫研究にも意欲を持って当たっている。特に回虫をモデルとしてイオンチャンネルシステムに及ぼす漢方薬の作用を検討することを進めているとのことであった。ただし中医学院では十分な実験室が整備できないのでどうしても同じ天津市内の天津医学院と共同で仕事を進めざるを得ないという現状を示された。ロンドン大学に留学経験のある方だけに研究環境への不満が残るのであろう。
漢方薬の寄生虫病の治療への応用が最も関心の大きな点であったが、現在のところその方面の研究は天津中医学院中薬学部においても特にテーマとしていないことは残念であった。その最も大きな原因は天津地区では寄生虫病の有病率が近年急速に低下しており、もはや大学での研究意義がないという認識が大勢となっていることであり、近年の日本国内の医学教育のなかの感染症の位置付けとあい通ずる思いがした。
天津医科大学寄生虫学教研室
天津医学院は1951年設立の5年制と7年制とを併設した医科大学で教員数1200名、在籍学部学生4700名、大学院は60名である。寄生虫学は基礎医学の学科として教育が行われており、講座主任は朱静和教授である。訪問当日は大学の業績評価が急に翌日から始まることになったということのために主任の朱教授には面会できず、副主任の楊秀珍副教授に話をうかがった。
天津市とその周辺地域では土壌伝播蠕虫の保有率が1%以下、トキソプラスマ抗体保有者が10%と衛生行政上は寄生虫病を問題としていない、と説明された。この教室は朱教授以下5名の研究スタッフと技術員2名で規模としては日本の医科大学の基礎医学講座とほぼ同じである。研究テーマとしてはトキソプラスマ症、クリプトスポリジウム、ニューモシスチスカリニを取り上げている。そのなかでもトキソプラスマの研究が主であり、免疫診断、循環抗原、宿主細胞への侵入機構などについての論文がある。循環抗原はトキソプラスマRH株の可溶性虫体粗

 

 

 

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